朝の埋葬
2007年 05月 10日
面倒を見ていたのは主に妻だったが、ぼくが休日で妻が仕事の日はぼくが餌をやったりしていた。するとどうだろう。急に、ぼくに懐くようになったのだった。あれだけぼくを見ると逃げ回り、撫でようとすると首をすくめるばかりだった猫が、進んで膝に乗ってくるようになったのには驚いた。これまではただ時々室内にいるというだけ猫だったのが、息も絶え絶えとなった今になって、やっと飼い猫らしくなってきたのだった。
ただ症状は好転したかに見えて、やはり死に至る病だったようだ。ここ数日で急激に悪化し、昨日の夜ぼくの膝で息絶えた。
ぼくにとって、この猫が真に飼い猫だったのは最後のひと月ぐらいだった。ようやく仲良くなったかと思ったら息絶えて、ぼくはぼくの可愛がり方が足りなかったようでこの猫に申し訳なく思った。けれどもそれがゆえに、ぼくはこの小さな命の消えてゆくのを哀れんでやることができた。その朝は、珍しくたくさん食べたという。夕方には大儀そうに土や草の上で寝ていた。夜過ぎに痙攣を始め、あっけなく死んでしまった。
朝にはまた復活しているような気がして箱を覗いてみたが、眠ったような姿で冷えて横たわっていた。ぼくは庭の隅のつわぶきの生えている辺りを刈り取り、他の猫達の墓を掘らないようにしてできる限り深く掘った。そしてクロチャンの小さな体を横たえ、黒い土をかけた。「思い出の猫達が一匹一匹いなくなる」と妻がつぶやき、涙をこぼした。それは猫の死以上にこたえた。朝の埋葬だった。
by pororompa | 2007-05-10 00:09 | 駄猫列伝 | Comments(0)