【音盤的日々 253】 BILL EVANS / QUINTESSENCE
2010年 03月 28日
コーヒーを飲みながらまず聴いたのは、ポール・デスモンドのライブ。癒しという言葉がぴったりだ。そして次に引っ張り出したのはこれ。LP時代からの愛聴盤。
'70年代のエバンスの最高作は何かと問われたら、迷わずこれだと答える。最後のライブでも、「ユー・マスト...」でもない。
'70年代のエバンスに、どうしてこの作品が作れたかと言うと、それは共演者のおかげだろう。この、凄腕にして趣味のよいメンバーが、孤高と言うより独りよがりに走りがちだった晩年のエバンスを、ほどよく抑制している。
そう、抑制の美がこの作品の魅力だ。こんなプレイもできるのねというフィリー・ジョー。サックスなのに脇役に徹したハロルド・ランド。そしてケニー・バレル。この人はどこに入ってもうまいねえ。ピアノとけんかせず、うまく隙間を埋めてしまう。サッカーなら、たまに上がってシュートを決める渋いボランチという役所。
そんな抑制された音の中で、ひときわ鮮明に浮かび上がって聞こえるのがレイ・ブラウンのベース。これがベースですという感じ。このアルバムを、レイ・ブラウンの代表作としてもいいのではないかという感じさえする。
ハイライトは「チャイルド・イズ・ボーン」だ。長男が生まれた連絡が入った時、頭の中で鳴り出したのは「クインテッセンス」のこの響きだった。ビルのあのバラード語りの裏で、絶妙に動くベース・ライン。ひそやかに背後で響いているライド・シンバル。重なるように入ってくるバレルのソロ。やっぱり'70年代のエバンスのアルバムのトップはこれよ。
by pororompa | 2010-03-28 11:41 | 音盤的日々 | Comments(2)
この『Quintessence』ですが、私もエヴァンスの最高傑作だと確信しています。エヴァンスのと言いましたが、参加したミュージシャン其々の連携が成せた作品ではないかと思います。ご指摘の『抑制』というタームに諸手を挙げて賛同します。『抑制の美』とは真に素晴らしい表現ですね。以前私のブログか昔のHPで採り上げ、その感動的な演奏の素晴らしさを記した記憶がありますが、感覚的に同類のものを感じる文章に出会え嬉しい限りです。
この作品はあまり話題にならないように思いますが、たまに話題になっても、あのけたたましい「インタープレイ」との絡みで語られることが多いようです。本当にこれを聴かれたのかと首を傾げたくなることがありますね。この幽玄の風景の中に吸い込まれて耳を傾ける時、ジャズを聴くうれしさをいつも感じます。