【音盤的日々 193】 TOMMY FLANAGAN / COMPLETE 'OVERSEAS' +3
2008年 10月 25日
ぼくがジャズを聴き始めた1970年代、このアルバムは「幻の名盤」と呼ばれて、すでに幻でも何でもなくそこらに普通に売っていた。ただぼくは、「C」という文字がずらっと並んだジャケットが嫌いだった。「Cを並べてオーバーCズ」という、ミュージシャンを馬鹿にしたような軽薄な趣向が不愉快だった。
モノクロ写真のものも在ったようだが、あまり出合わなかった。それよりぼくは、enjaの「エクリプソ」を愛聴していたので、それで足りると思ったのだった。「オーバーシーズ」のリメイクと言われる「エクリプソ」は素晴らしい作品で、これがあればもう「オーバーシーズ」はいらないような気がした。
最近当ブログに、トミー・フラナガンの唯一の弟子として有名な方が経営されている大阪のジャズクラブ、その名も「オーバーシーズ」というお店のママさんから書き込みをいただいたが、急にこれを買ったのはそのせいではない。トミ・フラには申し訳ないが、エルビン・ジョーンズを聴きたくなったからだった。毎年涼しくなると猛烈にジャズが聴きたくなるが、今年のぼくの耳はエルビンの「シャバダッダ、シュパタタパタ・・・・」という、あの歯切れの良いブラッシ・ワークを聴きたがっていた。
今回入手したのは、日本のディスク・ユニオンが編集したCDである。値段はやや高めだが、愛情込めた作りという気がした。高めと言っても、あの強烈に貧しかった学生時代、1500円の「廉価盤」をありがたく買っていた。今1500円が高く感じる。できるだけ安いのを買っていたので、1枚のインパクトが薄いのではないかと最近反省している。
そんなわけで先週の日曜日に注文したのがこの盤だ。火曜日の夜に届いたが、いろいろと忙しかった今週、中途半端な気分のまま味わいたくないと、週末までお預けにしておいたのだった。そして金曜日の夕方、疲れ果てて帰ってきてぼくは、このアルバムを手に取った。やっと明日は休日だ。元気な時に聴こうと思ったが、ま、ちょっとサワリだけ聴いてみようかなとスタートボタンを押した。
いつものように、「学級メール」を書こうとしたが、鳴り出した音がそれを許さなかった。本当に優れたジャズは、聞き流しを許さない。これはそういう演奏である。ぼくは仕事は後回しにして、スピーカーの前に姿勢を正した。これは凄いわ。何でこれを持ってなかったんだろうという気持ちと、久しぶりに味わう純粋なジャズ演奏への感動が混じって、妙な興奮が体に走り疲れを忘れた。
最初の3曲「リラクシン・アット・カマリロ 」「チェルシー・ブリッジ」「エクリプソ」で、すでにこのアルバムが「エクリプソ」以上だということを教えてくれる。3曲の内2曲がダブるからである。続くトミ・フラのオリジナル2曲、バラードの「ダラーナ」と急速調の「ベルダンディ」 が、エルビンのアルバムではなく、トミー・フラナガンのアルバムだということをはっきりさせる。そして「ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」と続いていく。
調べてみるとこの曲順はLPとは違っているようだが、必ずしも「オリジナルでない」とは言い切れない。なぜならこの作品は初め何とEPで出ていて、この編集盤の最初の3曲で1枚、4~6で1枚、7~9で1枚の3枚のEP盤の形が「オリジナル」だったらしいのである。このジャケットも、その中の一つから採られているので、これこそ「オリジナル」と言っていい。ジャケットには、残りの2枚のEP盤の図柄と、それから何と、あのCだらけのものやモノクロのジャケットまで、おまけに付けてある。正にジャズ・ファンの心理を知り尽くした、レコード屋ならではの作りだ。
ただ、「世界初登場」とかいう最後の3曲だけは蛇足だったのではないかと思う。「リハーサル・テイク」だったということだが、演奏はいいものの音質が格段に落ちる。おまけには無い方がいいものもよくある。
さて、ぼくはエルビンが聴きたいのだった。全編ブラシでザクザクと切れまくるエルビンは爽快だ。でもぼくは、トミー・フラナガンという第1級のピアニストの迫力を、改めて感じた。
by pororompa | 2008-10-25 14:10 | 音盤的日々 | Comments(2)
このアルバムは20歳の頃、モノクロ盤を購入して日夜聴いていました。
J.J.JOHNSONのアルバムでこのトリオを聴いたのがきっかけでした。
やはり聴きどころはエルヴィンのブラシ・ワークでしょうね。エルヴィンは比較的叩きまくるタイプだと思いますが、全然五月蝿く感じないのです。このアルバムでもフラナガンの持ち味が良く活きた好サポートだと思っています。
現在はpororompaさん不評の(笑)「C」ジャケ盤で楽しんでいますが、このオリジナルジャケも大いにそそられますね。以前中古屋でこのジャケのレコードを発見したのですが、少々値段が高かったので見送った経緯があります。
30年以上経ちますが、いまだに聴き飽きしないピアノトリオ盤です。
「叩きまくるのにうるさくない」、凄腕ですよね。
このエルビンさん、他の二人の兄弟が落ち着いたイメージのハンクとサドであることが一見意外に思えるのですが、よく聴くと案外抑えの効いた面もあるのかもと思います。コルトレーンのバラードやアール・ハインズとのトリオ盤での、やや抑え気味の中にも弾け出るような躍動感が好きです。